読書「資本主義の終焉と歴史の危機」水野和夫

「資本主義の終焉と歴史の危機」 水野和夫

               集英社新書

去年の年末から株価は急落して、また戻りながらも低空飛行を続けている。 米中関係の悪化のせいだとか言われているが、果たしてそんなに短期的なものだろうか?

この本が書かれたのは2014年3月、同年7月には9刷を重ねた大ベストセラーだ。

著者は三菱UFJスタンレーモルガン証券チーフエコノミストを務めた後、日本大学で教鞭をとっている水野和夫氏だ。

 

新書のなかには年数を経るうちに色褪せてゆくものが多いのだけれど、この本は日本と世界の進路を考える恰好の問題を提起している。

 

概要

利潤を生み出さなくなったとき、つまり市場の拡大が周辺に達して資源や労働力を安く買い叩くことができなくなった時、資本主義は終わると述べている。

それは、すでに1970年代に始まっており、その後電子空間の中に新しい市場を開拓した。 そして、3年ごとにバブルを繰り返しながら延命しているのが現在の状況だ。

 

人類史上ずっとゼロ成長の時代が続き、利子を付けるというのは「神ならぬ人間が時間も支配する能力を持った」ということで、長い16世紀を経て資本主義の時代が始まった。

経済は成長するのが当たり前と考えられている時代。

 

そして人類は再び成長のない時代に突入しようとしている。 その産みの苦しみの時代が長い21世紀だ。

と同時に覇権は陸の国、スペイン、ポルトガルから海の国、イギリスへと移っていった。

これはどういうことだろうか? つまり、自国内に市場を閉じ込めざるをえなかったスペイン、ポルトガルグローバル化東インド会社まで進出したイギリスに負けたということだ。

 

今度は逆のことが起きる。 グローバル化ではなく、地域共同体の時代がやってくるということだろう。

水野和夫氏は、EUに希望を抱いているようだけれど、この本が書かれたのはギリシャ金融危機後ではあるが、移民問題Brexitなどが起こる前のことだ。

 

今の時代に、成長神話を信じるのは愚かなことだ。 ゼロ成長、ゼロ金利の時期が長く続いている日本こそがクラッシュ(墜落)ではなく、ソフトランディングをして定常性経済へ向かう可能性を秘めている。 日本に続いてドイツがほぼ国債金利ゼロに近づいている。

 

資本主義の後どのような時代が来るのか分からないが、成長を信じるのはやめよう。

 

課題

①クラッシュによって資本主義が終わった場合、近代市民社会が育んできた、民主主義、人権、平等などの価値が崩壊する可能性がある。

②地域共同体としての東アジアの安定化のために、中国、朝鮮半島との関係修復が必須である。

③強欲な富裕層は、同朋の中産階級の富を収奪し格差を広げている。 これも市場の拡大の一種だろう。

などなど、今後の日本および世界を考えるのに示唆に富んだ本だと思う。