読書『サイコパスの真実』原田隆之著

サイコパスについての本は二三冊読んだことがあるけれど、今のところでは、この『サイコパスの真実』原田隆之著筑摩eブックスが一番理解しやすかった。



原田隆之は犯罪心理学、臨床心理学を学んだあと、法務省犯罪心理学の専門家として、東京少年鑑別所、東京拘置所などで犯罪者や非行少年相手に仕事をしてきた経歴の持ち主だ。

そのなかには、実際にサイコパスと呼ばれる人びととの接触があり、その診断や処遇にも関わってきた。

それが今まで読んだサイコパスに関する書籍と大きく異なる点である。

ご存じの通り、サイコパスは他者への共感と良心が欠如しており、善悪の境を軽々と超えてしまう。

著者が面談した経験から、自分自身の死にも現実味を感じないようで、死刑判決への可能性に対しても、どこか人ごとのような感情しか持たないようだ。

被害者家族が「心からの謝罪と後悔の念をせめて表してくれれば、許す気持ちにもなれるかもしれないのに、そうした言葉や態度が少しも見受けられない」と言うこともあるし、判決の際裁判長が「被告には罪を真摯に受けとめ反省する態度が見受けられない」と述べ、それが量刑に影響している場合も多々ある。

もし、被告がサイコパスであるならば、もともと他者に共感する能力がないのだから、それを求めても無駄だろう。

犯罪者のすべてがサイコパスであるわけでもないし、サイコパスが犯罪者に必ずなるわけでもない。

これはよく言われることだけれど、グローバル企業のCEOのなかにはサイコパスが多くの割合で存在するらしい。
スティーブジョブズについては巷間よく言われていることだ。

サイコパスについて少なくとも日本でクローズアップされるようになったのは、最近のことのように思われる。

かつては、英雄と言われた人たち、典型的な人物としては織田信長など、果敢な決断と敵への容赦ない仕打ちを躊躇することなく実行できた人たち。
現在では、某日本企業の外国人経営者のように過酷なリストラによって会社を立て直した経営者もその疑いがあるだろう。

リストラによって、いかに多くの家族が路頭に迷うだろうなどと心痛める人はグローバルな競争に負けてしまうだろう。

原田氏によれば、サイコパスの研究が進んている米国では「サイコパスが経営トップにならないためのチェックリスト」まで作られているそうだ。

戦争や戦闘がいまだに絶えることがないが、戦闘による死者が激減している現在、サイコパスは英雄としてではなく、犯罪者として現れる頻度が高くなってきたのだろう。*

原田氏は職業柄、サイコパスは矯正できるのか?成育環境によってサイコパスをマイルドサイコパスに成長させることはできないか?
あるいは、人口に一定程度存在するサイコパスに役割はないのだろうか?という視点が強い。
しかし、生来のハンディキャップを持って生れた人は多岐に亘る。

原田氏の言うように、今のところはサイコパスを政治経済のトップにさせない努力」(私たちはヒトラースターリンで十分学んだはずなのだが)が必要であり、真のリーダーシップとは何か?をきちんと考え、サイコパスのさらなる研究推進を待つしかないのかもしれない。

アメリカの心理学者スティーブンピンカーによると、先史時代の遺跡から発掘された人骨によると、多い時でその70%、平均すると15%の死因は致命的な暴力を受けたことに起因する。フィクションが含まれるとはいえ、旧約聖書全体では2000万人が大虐殺によって死んでいる。


古代ギリシャ叙事詩イリアス」は大虐殺とレイブの物語である。

宗教戦争に明け暮れた17世紀でさえ戦闘や暴力によって死亡したのは2%。20世紀になると世界大戦の死者を含めても0.7%, 2005年では0.0003%とのことである。