歴史サークル:66才女性アイドルの没落

フィクション
菜穂子は大学時代から歴史研究が大好きだった。
当時のことだから「君たちのなかから研究者が誕生したら嬉しいよ。だけど、その場合は結婚は諦めなくてはね」と教授が講義で平気でセクハラ発言をする時代だった。

そこまでの気持ちはなくて「研究者の夫と結婚して、著書の冒頭に『研究の成果に尽力を尽くしてくれた妻にこの本を捧ぐ』と書いてもらう」のが夢だった。

まぁ、こんな夢は潰れるのが定石で「私だったら、夫よりもっとましな論文を書くのに」と思いつつ、高校の教員を続け、家事も育児もこなし、能力を認められて、その学校から内地留学で一年間母校の修士課程で勉強した。

そんな菜穂子にも定年の時がやってきた。
定年後もいろいろな活動に八面六臂の活躍ぶり。

その中の一つに、地域の歴史サークルへの参加もあった。
入った当初は年配の男性ばかりのなかに、定年直後の【若い女性】が入会したものだから、ちやほやされた。

一二年はおとなしくしていたのだけれど、百戦錬磨の歴女菜穂子には、お爺さま方の歴史音痴に我慢ができずに、「それはおかしいです。歴史的にはこうこうこう言う資料があります」とかやりだしたものだから、可愛さあまって憎さ百倍なのか、古典的な「女のくせに生意気な」なのか、お爺さま方は事実、今風に言えばファクトもなんのその、潰しにかかって、お爺さまの勝ちにいつもなってしまう。

男に逆らう女は年を取っても苦労する。
サークルをやめたいけど、歴史への愛がそれを押し留めてます。

若い女性は頑張ってね。
むやみやたらに自己主張せず、ファクトに基づいて、下位の権力者ー男であれば女には権力者になれるんだからーに負けないでね。

と菜穂子さんは言っています。